実録不動産トラブル#10 売主の社長がニセモノだった!?〜会社の登記簿も信用してはいけない〜
登記簿は信用できない
「登記簿は信用してはいけない」という警告をこれまでのこの「NEWS」で再三発して来た。
そして、信用してはいけないのは不動産の登記簿だけではない。会社の登記簿(商業登記簿)も同様なのである。
ここで特に注意を喚起したいのは代表者(株式会社であれば代表取締役)の登記である。代表取締役として登記されていれば通常は真の代表者であると信じて取引をする。しかし実はそれが真の代表者(実体上正当な手続きで選任された代表者)であるという保証はないのだ。
そしてもし代表者がニセモノだったら、売買契約は無効(効果不帰属)である。
チェックが必要な場合
この様に売主の代表者が真の代表者かどうかは大変重要な問題なのであるが、当然全ての会社に付いてこのチェックが必要な訳ではない。チェックが必要なのは、不自然な役員変更登記がなされている会社のみである。
即ち、例えば任期途中で取締役全員が退任(辞任、解任)している場合、短期間に頻繁に役員(取締役)の変更が繰り返されている場合、等である。
チェックの方法
先ず、当事会社へのヒヤリングをする。どういう事情でその様な不自然な役員変更を行ったのかを聞く。それで問題ないと判断できれば良いが(例えば正当な会社売買)、出来ない場合は退任した取締役に直接事情を聴く必要がある。
それを拒絶するようであれば、その役員変更登記は不正な方法で行われた可能性が高い。その会社との取引は中止するべきである。
実 例
小職もあるマンションデベロッパーの完成建物購入案件で、売主会社の役員が頻繁に変わっているのを不自然に思い、その点を指摘して当事者同士で内容を確認してもらっていたが、決済当日に商業登記簿を調べたところ直近でまた代表者が代わっていたという事があった。
この時は決済の現場で買主側が売主に対してその点の説明を求めたが納得いく説明がされなかった為決済を延期した。最終的には所謂「事件屋」が関与していたことが分かり取引は中止になった。
この話には後日談がある。当該マンションを他のマンションデベロッパーが購入しすぐに分譲した。完売した後で「真の所有者」が所有者は自分であり売買は無効であると主張して来たそうだ。分譲後であるから金銭的解決を図ったと推察される。
商業登記の公信力
ところで商業登記には不動産登記とは違い不実の登記を信じた善意の第三者は保護されるという効果がある(公信力、商法9条2項、会社法908条2項)がこれはあくまでも正当な代表者が故意過失により真実でない登記を作出した場合のことであり、上記のケースには妥当しない。
※ニセモノの代表者を登記する方法の説明は割愛する
▼関連記事一覧