不動産リスクコンサルティング
実録不動産トラブル#16 後見人が不動産を知らないと大変!
◆老朽化した借地上の空き家
東京都区部某所での話である。
Aさん(86歳、女性)は認知症が進んでおり、離れて住む息子の申し立てにより家庭裁判所から弁護士のB氏がAさんの成年後見人に選任されていた。Aさんは長年夫と共に一戸建ての住宅に居住していたが、数年前夫に先立たれ建物の名義はAさんのものになっていた。
敷地は借地(50坪)であった。
2年ほど前にAさんは有料老人ホームに入居したため自宅は空き家となっており老朽化も進んでいた事から、地主はAさんの後見人のB氏に対して、そのまま放置しておくのは危険であるから建物を取り壊すようにと要求して来た。
◆建物取壊しと借地契約の終了
後見人が何らアクションを起こさずにいると、地主は自分が建物解体の手配をするからAさんが解体費用200万円を負担する様求めて来た。
後見人は、地主と交渉し費用を50万円に減額させた。家屋は地主の費用負担によって取り壊され、土地は更地になり、Aさんが戻る可能性もないので借地関係も解消した。
取壊し費用以外に金銭の授受は行われなかった。
◆何が問題か?
ここでの問題は、もちろん解体費用の負担の点ではなく、何の対価もなく借地関係を解消させてしまった(土地賃貸借契約を終了させてしまった)点にある。そしてこれが悪意からでなく(近年後見人の横領行為が問題となっているがそういった問題でもなく)、借地権に関する理解の低さから起こった悲劇だ(むしろその後見人は解体費用の負担を減額させた事を自分の功績だと考えていた節があったとか)という点である。
借地権というのは立派な財産権である。都内区部の借地であればそれなりの評価が与えられる。国税庁は更地としての価格に一定の借地権割合を乗じて借地の評価額を算出するという基準を定めている。借地権割合は借地事情が似ている地域ごとに定められており、路線価図や評価倍率表(www.rosenka.nta.go.jp)に表示されている。
例えば東京スカイツリーの近く、墨田区業平4丁目を例にとって考えてみよう。ここでは路線価は35万円、借地権割合は70%である。
仮に35万円を80%で割り戻した金額を実勢価格と考えた場合、業平4丁目で50坪の更地の実勢価格は約7,200万円、これに借地権割合70%を乗じると借地の価格は約5000万円という事になる。
後見人は5000万円の価値のある財産を放棄してしまった事になるのである!
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